はじめに
AI技術が進化し続ける中、生成AIや会話型AIが注目されています。特に、ChatGPTのような高性能な会話型AIの学習プロセスとして採用されている「RLHF(Reinforcement Learning from Human Feedback、人間からのフィードバックを用いた強化学習)」について詳しく知りたい方も多いでしょう。本記事では、RLHFの基本から具体的な学習プロセスまでを分かりやすく解説します。
RLHFとは?
RLHFとは、AIモデルの出力に「人間の価値基準」や「人間の好み」を反映させるための学習プロセスの一つです。AIの出力が人間の意図に沿うようにするため、既存の言語モデルを調整(チューニング)する目的で使用されます。この技術のおかげで、ChatGPTのような会話型AIが人間の意図に沿い、無害で有用な応答を提供できるようになっています。
強化学習とは?
RLHFの基礎を理解するためには、まず「強化学習」について知る必要があります。強化学習は、機械学習の一種で、試行錯誤を通じて与えられた課題を解決する学習方法です。具体的には、AI(エージェント)が環境内で行動を選択し、その結果として得られる報酬を最大化するように学習を進めていきます。
例えば、迷路を最短経路で突破することを目指すゲームを考えてみてください。ここでは、エージェントが迷路内のプレイヤーであり、迷路そのものが環境です。プレイヤーは迷路を進むたびに「右に行く」「左に行く」などの行動を選択し、その結果に応じて報酬(例:経路の短さ)が与えられます。プレイヤーはこの報酬を基に、どうすれば効率よく迷路を抜けられるかを学習していきます。
同様に、強化学習を利用してAIが特定のタスクを最適化することができます。RLHFでは、この強化学習の枠組みを利用し、AIが生成する応答文が人間にとってどれだけ「望ましい」かを評価し、AIの応答を改善していきます。
ヒューマンフィードバックの役割
RLHFでは、ヒューマンフィードバック(人間からのフィードバック)が重要な役割を果たします。具体的には、AIが生成した応答文に対して報酬を与える際に、このフィードバックが使用されます。報酬の決定方法には、人間の価値観や意図を反映させるため、AIが生成した応答文を人間がランク付けするというプロセスが含まれます。このランク付けを基に「望ましい応答」を評価できる報酬モデルを作成します。
例えば、InstructGPTというAIモデルでは、強化学習を実施する前に、人間が作成したプロンプトとそれに対する望ましい応答のセットを教師データとして使用し、AIを事前学習させます。これにより、AIが生成する応答文がより人間の意図に沿ったものになるように調整されます。
RLHFの学習プロセス
RLHFの学習プロセスについて、具体的に見ていきましょう。ここでは、InstructGPTの論文を参考に、そのプロセスをステップごとに解説します。
ステップ0:大規模言語モデルの用意
RLHFを適用するためには、まず優秀な大規模言語モデルを用意する必要があります。RLHFの役割は「モデル作成者にとって好ましい出力をするように言語モデルを微調整する」ことなので、元の言語モデルが高性能でないと、RLHFを適用しても望ましい結果は得られにくくなります。そのため、GPT-3やGPT-4のような数十から数百億のパラメータを持つ大規模言語モデルが一般的に使用されます。
ステップ1:教師あり学習で既存の言語モデルをファインチューニング
最初のステップでは、既存の大規模言語モデルに対して、教師あり学習を用いてファインチューニングを行います。具体的には、学習に使用するプロンプトを用意し、それに対する「望ましい出力」を人間が作成します。これらのデータセットを使って、AIモデルをファインチューニングし、まずは人間が望む出力を生成できるように調整します。
このプロセスにより、AIモデルはある程度の「人間らしさ」を持つ応答を生成することができるようになります。
ステップ2:出力のパターンの収集と報酬モデルのトレーニング
次に、ステップ1でファインチューニングされたモデルを使用して、特定のプロンプトに対する複数の応答を生成します。これらの応答文は、より「望ましい」ものから順にランク付けされます。このランク付けデータを基に、報酬モデルをトレーニングします。
報酬モデルは、AIが生成する応答文がどれほど「望ましい」かを数値化するためのモデルです。例えば、真実性(正確な情報を提供するか)、無害性(有害な情報を含まないか)、有益性(ユーザーにとって役立つ情報か)などの観点から評価されます。これにより、AIが生成する応答文の「望ましさ」を数値で評価できるようになります。
ステップ3:報酬モデルに対してポリシーを最適化
最後に、ステップ2で作成した報酬モデルに基づいて、AIモデルのポリシーを最適化します。ポリシーとは、現在の状態でAIがどのような行動を取るべきかを決定するための戦略のことです。RLHFにおいては、特定のプロンプトが入力されたときに、どのような応答を返すべきかを決定するための戦略です。
具体的な流れとしては、データセットから学習に使用していないプロンプトを抽出し、そのプロンプトに基づいて応答文を生成します。生成された応答文に対して報酬モデルを適用し、得られた報酬を基にポリシーを更新します。この一連のステップを繰り返すことで、より高い報酬を得る応答を生成できるようにモデルが最適化されていきます。
PPOアルゴリズムについて
RLHFの最適化ステップでは、一般的に「Proximal Policy Optimization(PPO)」アルゴリズムが使用されます。PPOは、Actor-Criticという手法の発展系であり、連続的な制御問題でのポリシーベースの手法として人気があります。PPOはポリシーの更新幅を制限することで、学習の安定性を保ちつつ、高い学習性能を実現しています。
まとめ
RLHF(人間からのフィードバックを用いた強化学習)は、AIモデルが人間の意図に沿った応答を生成するために重要な技術です。強化学習の枠組みを活用し、AIの出力に対する人間の価値基準を反映させることで、ChatGPTのような会話型AIがより人間らしい応答を提供できるようになります。このプロセスを通じて、AIはますます私たちの期待に応える能力を高めています。
今後も、RLHFを含むAIの学習技術はさらに進化し、より精度の高い応答を提供するAIが登場することが期待されます。
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