はじめに
生成AIの進化と普及が進む中、特に注目されている技術の一つが「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」です。この記事では、RAGの基本的な概念から、その仕組み、メリット、導入手順、そして実際の活用事例まで、詳しく解説します。
RAGとは?
RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、生成AIに検索機能を組み合わせることで、自社のデータベースや専門知識を活用した高精度な回答を実現する技術です。従来の生成AIは、一般的な知識に基づく回答しかできませんでしたが、RAGを活用することで、自社特有の情報や専門的な内容も対応可能となります。
生成AIは、広範な情報を元に回答を生成しますが、特定の分野に特化した情報や自社の内部情報には対応しきれないことが多いです。RAGは、生成AIの回答能力を補完する形で、自社データや外部データを検索し、その情報を元により正確で専門的な回答を提供することができます。
【図解】RAGの仕組み
RAGの仕組みは、以下のように説明できます。ユーザーが質問を入力すると、生成AIはその質問に対する回答を生成する過程で、LLM(大規模言語モデル)と連携した検索システムを利用します。これにより、社内データベースや外部情報を参照し、回答の精度を高めることが可能となります。
例えば、社内マニュアルや業界の専門書から情報を取得し、それを元に生成AIが回答を生成します。これにより、より詳細で正確な情報提供が実現されます。
RAGとファインチューニングの違い
RAGとファインチューニングは、生成AIを自社ニーズに合わせてカスタマイズする方法として似ている部分もありますが、異なる点もあります。
- ファインチューニング:生成AIのモデルに自社データを学習させることで、モデル自体をカスタマイズする方法です。このプロセスは大規模なデータ処理とコストがかかることが多いです。
- RAG:生成AIに外部データベースを接続することで、リアルタイムに情報を取得し、回答に反映させる方法です。モデルそのもののカスタマイズは不要で、比較的低コストで実装できます。
RAGを活用する3つのメリット
RAGを活用することで得られる主なメリットは以下の3つです。
①誤った回答が出力されるリスクを減らせる
通常の生成AIは、学習データに依存して回答を生成するため、データに誤りが含まれていると、そのまま誤った回答を出力する可能性があります。RAGを利用することで、社内の正確な情報や専門知識を基にした回答が可能となり、誤った回答のリスクを減らすことができます。
②自社独自のデータや専門的な知識を反映した回答が可能になる
RAGにより、自社のマニュアルやノウハウ、業界の専門知識を生成AIに学習させることで、特定のニーズに応じた回答が実現できます。これにより、従業員は膨大な資料から迅速に必要な情報を得ることができ、業務の効率化が図れます。
③LLMの追加学習不要で効率的に更新できる
RAGは、外部データベースを変更するだけで生成AIの知識を最新のものに更新できるため、追加の学習やモデルの再構築が不要です。これにより、コストと手間を抑えながら、常に最新の情報を提供することができます。
RAGを導入する手順~6つのステップで紹介~
RAGを導入する際の手順は以下の6つのステップで進めることができます。
①要件定義
RAGの導入にあたって、まずは目的や必要な機能を明確に定義します。どのような情報を提供したいのか、どのようなデータを学習させる必要があるのかを具体的に決めることで、開発がスムーズに進みます。
②データベースの選定
次に、目的に応じたデータベースを選定します。社内情報検索システムを構築する場合は社内のマニュアルやガイドライン、専門的な情報を扱う場合は業界の専門書などが考えられます。選定するデータの質と正確性を確認することが重要です。
③検索システムの構築
選定したデータベースを基に、検索システムを構築します。検索結果が正確であるか、データベースの情報が適切に反映されているかを確認し、問題があればデータの選定から見直す必要があります。
④モデルの選定とトレーニング
構築した検索システムに接続するモデルを選定し、トレーニングを行います。さまざまな大規模言語モデルがあるため、自社の目的に最適なモデルを選ぶことが重要です。自信がない場合は、専門の開発会社に依頼するのも一つの手です。
⑤検索システムとモデルの統合/テスト
検索システムとモデルが準備できたら、両者を統合し、実際に動作するかテストします。問題が発生した場合は、原因を特定し、修正を行います。仮説と検証を繰り返して最適化を図ることが必要です。
⑥デプロイと運用/モニタリング
統合が完了したら、システムをデプロイし、運用を開始します。まずは一部の従業員に試用してもらい、問題点を改善した後に全社的に導入するのが望ましいです。また、継続的な保守・運用とデータの定期的な更新も重要です。
RAGを導入する際の4つの注意点
RAGを導入する際には、以下の4つのポイントに注意する必要があります。
①接続する外部データの質・正確性は担保されているか
生成AIに接続する外部データが正確でない場合、回答の精度も低下します。データの質と正確性を十分に確認し、信頼性の高い情報を使用するようにしましょう。
②現場で使いやすいUI設計になっているか
生成AIのシステムが現場で使いやすくなければ、導入しても効果が薄れます。ユーザーインターフェースが直感的で使いやすいかどうかを確認し、試用後のフィードバックを基に改善を行うことが重要です。
③定期的にデータを更新しているか
RAGを導入した後も、データを定期的に更新しなければ、生成AIが古い情報を基に回答することになります。定期的なデータ更新を計画し、システムを常に最新の状態に保つことが求められます。
④データの量は適切に保たれているか
データの量が多すぎると、生成AIが情報を処理するのに時間がかかることがあります。データ量は適切に管理し、目的に応じた最適な量を保つようにしましょう。
まとめ
RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、生成AIの限界を補完し、より正確で専門的な情報提供を可能にする技術です。生成AIの強力な言語生成能力と、社内データや専門的な知識を検索する機能を組み合わせることで、企業は特定のニーズに応じた高精度な回答を得ることができます。
RAGの仕組みでは、生成AIが回答を生成する際に、内部データベースや外部情報源をリアルタイムで検索し、その結果をもとにした回答を提供します。これにより、従来の生成AIでは難しかった専門性の高い質問への対応が可能となり、また誤った情報のリスクを低減することができます。
さらに、RAGはファインチューニングとは異なり、追加の学習やモデルの再構築を必要とせず、データベースの更新だけでシステム全体を最新の状態に保つことができます。このため、コストと手間を抑えつつ、常に最新かつ正確な情報提供を実現できます。
RAGの導入にはいくつかのステップと注意点がありますが、適切に実装することで、企業の業務効率化や顧客対応の向上につながる大きなメリットがあります。今後、生成AIとRAGを組み合わせた新しい活用方法がさらに広がっていくことでしょう。これからも、この革新的な技術がどのように進化し、実際のビジネスでどのように活用されていくのか、注目していきたいところです。
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